婚活相手の女性に「性欲の強さ」を求められたら……【石神賢介】
『57歳で婚活したらすごかった』著者・石神賢介のリアル婚活レポート第3回
自分には手に負えない相手だと思った。こういうところが57歳の悲しさだ。性欲は明らかに衰えている。彼女のお誘いは嬉しかった。しかし、自信がない。朝まではどう考えても無理だ。48歳の男性への失望を聞いたばかりだ。僕の手に負える相手とは思えない。据え膳を食うには疲れすぎていた。
明らかなチャンスが訪れているのに、腰が引けるとは――。情けない。
■雑誌に出たい女性
もう一人、連絡先を交換した電気機器メーカーの秘書室で働く女性とも食事をした。
表参道駅近くのイタリアンレストランで会ったのは37歳のエミさんだ。参加した恵比寿のパーティーでは一番若かった。ロングヘア。ややぽっちゃりしているが、顔立ちがはっきりしている。彼女にはきっとモテまくった時期があったはずだ。
エミさんとの食事の席で、僕はうかつだった。
この時期、知り合いの男性グラビア雑誌編集者に相談を受けていた。「20代美人秘書特集」という企画をやりたいので、知り合いに該当者がいたら紹介してほしい、というリクエストだった。そこで、目の前で食事をしているエミさんに聞いたのだ。
「秘書室に、20代で美形の社員で、雑誌に出てもいい人はいませんか?」
経験上、今は雑誌に出たくない人のほうが多数派だ。媒体は人探しに苦労している。
「なぜですか?」
顔を上げたエミさんに理由を話した。
「20人くらいの女性を撮影したいけど、なかなかそろわないらしいんですよ」
実情も説明した。すると、思いもよらぬリアクションが返ってきた。
「私ではいけませんか?」
〝20代〟〝美形〟という条件は伝えている。〝美形〟は、多分に主観が入るが、それでもグラビア誌で、コストをかけ、プロのフォトグラファーが撮影するので、かなり多くの人が納得するレベルでなくてはならない。
「いや、すみません、20代という条件があるので」
彼女は37歳だ。
「実年齢を言わなければいいじゃないですか」
「読者にうそをつくのはよくないので」
彼女が雑誌に出たいとは、思いもよらなかった。
「私、20代に見えませんか?」
自信があるらしい。20代には見えないけれど「見えない」とは言えない。
「該当する女性が、秘書室にいらっしゃらなければいいです。ちょっと聞いてみただけなので、忘れてください」
汗が出てきた。
「私を推薦してもらえませんか」
「いや、そういうわけには……」
それからは気まずく食事を続けた。もちろん、仲よくはなれなかった。
パーティーで連絡先を交換して浮かれたのも束の間、その先にはいろいろな難関が待っている。
好きな誰かとともに生きていきたい――。婚活を再開したときからの気持ちはまったく変わってはいない。ところが、たった一人の女性と出会うのがこんなに難しいとは。あらためて思い知った。
人生の折り返し地点は過ぎた。こんなことを言うとバカみたいだと思われるかもしれないが、ここからの年月を目一杯楽しく過ごしたい。いよいよこの世を去るときに、楽しかったなあー、と思ってまぶたを閉じたい。一緒に暮らしてくれた女性に「ありがとう」と言って、ピリオドを打ちたい。
(第3回へ つづく)
※石神賢介著『57歳で婚活したらすごかった』(新潮新書)から本文一部抜粋して構成
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